inner universe(2016)
廃屋や古い建物が好きだ。
どんなに時間が経っても、人の営みの手触りや気配が部屋の其処彼処に残っているような気がするからだ。何人も何十人もの人生が、空気に染み込んでいる。
その空間に設置された穴を覗き込むと、暗闇の中でゆらゆらと胎児のようなものが漂う。
草野心平の詩に「劫初から時間の中で」という詩がある。
劫初とは、この世の初めのこと。
この世の初めから、今この瞬間、その中のほんの一時を、他者と共有することの稀有と、生き物同士が向き合った時にうまれる心胆の揺らめきの瞬間を切り取ったような詩だと思った。暗闇の中で漂う生き物の、その様子をただじっと見つめて欲しい。